美しい旋律を違った角度から更に感じ取ることができる!
作曲、監修:植松伸夫 編曲:浜口史郎 奏者:ルイ・レーリンク
今回は20周年を迎えたFF9より、ピアノコレクションズをご紹介します。
奏者はオランダ人ピアニストのルイ・レーリンク氏が担っております。
CDの全体像
編曲が浜口史郎さんということで、今作も原曲のメロディアスさを多く残したアレンジになっている印象です。
植松さん、浜口さんのコンビはオケアレンジにしても、ピアノアレンジにしても楽曲に親しみが持ち易いものが多いです。
なので、ピアノコレクションに聴き慣れていない方にも聴き易い部類に入ると思います。
ただし、前半の楽曲の前奏部分に一癖感じる部分はありました。
なので、ここでCD全体の印象として、ちょっと癖があるように感じる方は、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
収録曲数は14曲、収録時間は54分です。
これらはピアノコレクションとしては多く、充実した内容に感じます。
選曲については、人気曲は一通り収録されております。
なので、そういった意味でも聴き易さがあると思います。
ただ、個人的に気になった点も2点ほどありました。
1つは、キャラクターのテーマ曲がほぼ入っていないことです。
厳密には「ローズオブメイ」は「ベアクリトスのテーマ」と言えなくもないですが、パーティメンバーのテーマ曲が1曲も選ばれていないことは、ちょっと勿体なく感じてしまいました。
個人的に、キャラクターのテーマ曲は特に植松さんの音楽性が表出し易いと思っているだけに、勿体ないなと感じるのです。
そして、もう1つはアルバム全体の抑揚がやや不足しているように感じました。
曲数が多いのは嬉しいのですが、それだけに、明るく賑やかなタイプの楽曲がもう1曲欲しかったなとは思います。
「vamo alla flamenco」はそちらに該当すると思うのですが、重厚でシリアスな印象の楽曲が多く、全体的に空気感がちょっと重く感じます。
それならば、どの曲が入れば良かったのかなと具体的に考えてみますと、「バトル1」あるいは、「飛空艇ヒルダガルデ」といった辺りでしょうか。
収録されている「とどかぬ想い」と旋律が被ってしまいますが、気になる2点が両方解消される「ジタンのテーマ」なんかも良かったかなと思います。
全体の空気感の抑揚みたいなものがあれば一層良かったように感じました。
収録曲
1.永遠の豊穣
2.隠者の書庫ダゲレオ
3.いつか帰るところ
4.vamo alla flamenco
5.辺境の村 ダリ
6.魂なき村 ブラン・バル
7.消えぬ悲しみ
8.独りじゃない
9.盗めぬ二人のこころ~その扉の向こうに
10. ローズ・オブ・メイ
11. 眠らない街 トレノ
12. とどかぬ想い
13. 最後の闘い
14. Melodies of Life
1.永遠の豊穣
「いつか帰るところ」ではなく、あえてこちらから始まるというのが、サントラとの違いという部分で一線を画しており、好印象を持ちます。
一方で、ファーストインプレションとなる1曲目なので、いきなりフォルテッシモから入るインパクトのある前奏部分において、どこかCD全体の重厚な空気感を覚える一因にもなっているように思います。
ゲームシーンのダンス感は消えており、きめ細やかなピアノの良さを前面に出すようなアレンジになっているように感じます。
2.隠者の書庫ダゲレオ
前奏部分のアレンジがちょっと気になりました。
花畑で鳥が囀っているような可憐な雰囲気で、ダゲレオの光景が目に浮かびにくく感じてしまったのです。
ダゲレオをあまり意識しなかれば非常に良く聴こえるアレンジなので、ゲーム音楽でなければ気にならなかったのかもしれません。
こちらもアルバム序盤の2曲目ということで、ちょっと癖があるのかな?と誤解を招く因子になっているようにも感じます。
3.いつか帰るところ
ゲームタイトルの楽曲が3曲目に入るというちょっと意外な収録順です。
個人的には、原曲のイメージから大きく反れなかったので、ここから安心して聴けるような感覚がありました。
原曲イメージから離れていた点は、フォルテッシモで響かせるようなイメージがあったのですが、こちらでは繊細な演奏でした。
しかし、この点に関しては、そのギャップが返って良かったです。
4.vamo alla flamenco
こちらの楽曲は意外とFF9において世界観だったり、ゲーム性を印象付けるような楽曲のように感じているので、こうして「いつか帰るところ」の次に入っていてくれると、どこかしっくりくるものがありました。
ピアニストの技巧的な部分を感じ易いトラックで、楽しんで聴けます。
欲を言えば、もっと後半に向けてのダイナミクスを感じたかたので、そこはちょっと物足りなさは感じました。
5.辺境の村 ダリ
原曲からして美しい旋律の楽曲ですが、そこを更に感じさせる素晴らしいアレンジに感じました。
序盤には繊細さを、終盤には力強さも感じますが、そのどちらも美しさがあります。
個人的にはこの上無いようなアレンジに感じました。
7.消えぬ悲しみ
無類の弦楽器好きの私ですが、それでも原曲よりもこちらのピアノアレンジの方が良いかもと思ってしまいました。
アレンジや演奏の素晴らしさがそう感じさせるのでしょうが、ピアノという楽器そのものの魅力についても考えさせられました。
特に、和音の部分ではピアノは凄いなと感じさせられました。
8.独りじゃない
イントロのフォルテッシモから、主旋律で音を落とすダイナミクスが非常に心地良いです。
コンサートで度々演奏されているオーケストラアレンジも浜口さんだったと思うのですが、それを聴いていてアレンジの難しい曲だな感じてしまっていました。
しかし、こちらのピアノアレンジは難しさを感じさせませんでした。
10. ローズ・オブ・メイ
こちらの楽曲はもっと原曲に近いシンプルなアレンジの方が良かったかなと思いました。
特に、ややスローテンポなのが気になりました。
しかし、旋律の美しさの部分ではやはりグッと引き出されているなと感じます。
11. 眠らない街 トレノ
原曲がピアノソロ曲なので、ちょっと意外な選曲に感じました。
大きく原曲と変わらないシンプルなアレンジです。
サントラレビューの方でも書きましたが、個人的に非常に好きな楽曲なので、シンプルなアレンジで聴けるのは嬉しいです。
12. とどかぬ想い
なんと言いますか、ピアノによる表現力で切なさみたいなものがよりダイレクトに心に響いてきます。
自分に、とどけたい想いが届かないような状況が生じて、これを聴いたら凄いことになるだろうなと感じました。
暗く静かなところで、目を閉じ、聴きたくなります。
13. 最後の闘い
唯一の戦闘曲です。
前曲からのトラックの並びが流れ的に良く感じます。
前曲のまま静かに入り、中盤以降に爆発するのがダイナミクスとして引き込まれるものがあります。
14. Melodies of Life
エンディング曲は素直に最後に収録されています。
ピアノアレンジでも当然のように素晴らしく、期待通りといったところです。
シンプルなアレンジで原曲の美しさを活かしています。
最後の余韻も印象的です。
静寂すら、何かを訴えかけてくるものがあります。
まとめ
最初の2曲までと、「いつか帰るところ」以降の楽曲で、アルバム全体の印象が変わって行きます。
冒頭で意表を付かれて、そこかららやってくる安定感、そういったものに揺さぶられるような感覚がありました。
アレンジは、音楽を良く知っているコアな方からは物足りなくも感じる可能性はあるかもしれません。
しかし、私のようにピアノのことをよく知らず、ゲーム音楽をピアノでも楽しんでみたい、といったライトな方に期待通りのアレンジであると感じる人も多いのではないでしょうか。
FF9も美しい旋律のが曲が多いので、それを違った角度から更に感じ取れるような魅力がこの作品にはあると思います。
なので、FF9の楽曲のメロディアスな部分に魅力を感じる方には特に聴いてみて頂きたいと思います。