楽曲の魅力を紐解いて、素晴らしさを再認識させられるようなアレンジに注目!
2021年6月26日 / 東京芸術劇場(配信)
コンポーザー:菊田裕樹 アレンジャー:宮野幸子
今回は、先日配信形式で開催された『聖剣伝説3』の25thアニバーサルコンサートのレポート記事を書かせて頂きます。
目次
開催概要
こちらのコンサートは、本来であれば昨年5月に開催予定だったのでした。
私もチケットを手配済みで、聖剣3のオリジナル版及びリマスター版の両方をプレイした上でサントラを聴き込むというかなり入念な準備をして楽しみに待っていました。
しかし、感染症蔓延のため”公演中止”という誰もが無念でしかない結果となってしまいました。
公式発表が”延期”ではなく、”中止”だったので開催を諦めてしまったのかと不安になったのですが、コンポーザーの菊田裕樹さんから「いつの日か必ず」といったコメントがあったため、その言葉を微かな希望として胸に留めていました。
そして、配信という形ではありますが、1年後に待望のコンサートが実現することとなりました。
会場は東京芸術劇場だったのですが、実のところ今回も有観客開催という形も検討はしていたようです。
配信形式という着地点に悔しい思いをしているのは主催者側も同様のことでしょう。
コンサートグッズはピンバッチのみで、限定チケット購入者に送付される形式でした。
ただし、フィギュアや人気のオルゴールといった商品はスクエニe-STOREの方で新たに発売されることになり、幕間の休憩時間中にはそれらの宣伝もありました。
配信コンサートの利点として、アーカイブス配信がこちらのコンサートにおいても行われ、1週間は繰り返し視聴することが可能でした(私は合計で4回視聴しました)。
なお、有観客開催も検討していたという情報は「4Gamer.net」のこちらの記事に書かれていたのですが、こちらの記事の菊田裕樹さんによる曲目解説が非常に参考になりました。
アーカイブス配信期間内に出た記事だったので、解説を読みながらコンサートを視聴するという大変有意義な時間を過ごせました。
これも配信コンサートならではの良さだなと感じさせられます。
というわけで、こちらの記事では上記の菊田裕樹さんの解説も引用しながら進めていこうと思います。
出演者
指揮:大井剛史
オーケストラ:東京交響楽団
コンポーザー:菊田裕樹
アレンジャー:宮野幸子
演目を振り返る前に、出演者を整理しておきます。
演奏は大井剛史さん指揮のもと、東京交響楽団が素晴らしいオーケストラサウンドを聴かせてくれました。
大井剛史さんは、これまでにもゲーム音楽コンサートにて指揮台に立たれております。
例えば、「ドラゴンクエスト」ウインドオーケストラコンサートでは吹奏楽を指揮されたりしていました。
私が参加したコンサートで言えば、2019年の「下村陽子 30th Anniversary Orchestra Concert」でも指揮を振られたのですが、実はその際もオーケストラは東京交響楽団でした。
東京交響楽団によるゲーム音楽コンサートの演奏は他にも2019年の植松さんの還暦コンサート等、多数でお世話になっています。
コンマスの方を始め、見慣れた楽団員の顔がたくさんありましたが、その中でもスクエニ作品を中心としたゲーム音楽が好きであることを公言されている主席チェロ奏者、伊藤文嗣さんの姿を見付けたときはなんだか嬉しくなりました。
今回はオーケストラのみの演奏で、ゲスト奏者は参加されておらず、ヴォーカルやコーラス、ロックサンド等は無かったのですが、そこがまた返って印象的で素晴らしいコンサートとなっておりました。
菊田裕樹さんの楽曲の素晴らしさはもはやここで言う必要はないのですが、今回のコンサートでも大きな存在感を示したのがアレンジャーの宮野幸子さんでした。
宮野さんはこれまでにも「PRESS START 2012」や「ニーアコンサート」、「テイルズコンサート」でのオーケストラアレンジや、CDでは光田康典さんの「ハルカナルトキノカナタヘ」、「 -MYTH-ゼノギアス・フルオーケストラアルバム」、サラ・オレインさんの「SARAH」等、多数の作品に関わられています。
登壇はされなかったのですが、菊田さんの横でコンサートを聴いていらっしゃる姿が映像で映し出されていました。
菊田さんが「私の音楽を理解された上で素晴らしいオーケストラアレンジをされている」と終始絶賛されていたように、本当に素晴らしいアレンジで、私には楽曲の良さだけでなく、1つ1つの楽器の良さも最大限に引き出されているように感じました。
演目
アンコール含め全19曲となっております。
一部の楽曲はメドレー形式になっていますが、いずれも2曲のメドレーとなっており、3曲以上のものは含まれていません。
曲数としては多い方なのですが、コンサートの時間にすると休憩含め120分を切っております。
中には長い楽曲も含まれているため、意外に感じさせられました。
選曲としては「あ、あの曲漏れちゃってるな」というのがほぼなく、サプライズもしっかり用意されているので、満足できないファンは居ないであろう隙の無い構成になっている印象です。
【第一部】
1.Where Angels Fear To Tread
2.Meridian Child
3.Whiz Kid ~ Another Winter
4.Person’s Die ~ Oh I’m A Flamelet
5.Raven ~ Female Turbulence
6.Powell
7.Evening Star
8.Little Sweet Cafe
9.Nuclear Fusion ~ Positive
【第二部】
1.Splash Hop ~ Can You Fly Sister?
2.Decision Bell
3.Delicate Affection
4.Intolerance
5.Strange Medicine ~ Hightension Wire
6.Sacrifice Part One, Two and Three
7.Return to Forever
【encore】
1.Angel’s Fear ~ 天使の怖れ
2.Electric Talk ~ 少年は荒野をめざす
3.子午線の祀り ~ Meridian Child
Where Angels Fear To Tread
サントラは収録順が順不同でしたが、コンサートではゲームの流れに沿ってオープニング楽曲から演奏がはじまりました。
まずはマナの樹にまつわる伝承が語られ、そこから聖剣伝説3の物語が徐々に紐解かれています。
こちらの楽曲ではゲームのオープニングとして、楽曲がいかに演出として重大であるのかが改めて思い知らされます。
菊田さんの仰るように、いざ楽曲が走り出すポイントでの大きな感動というのは形容しがたいものがあります。
ゲームにおける「冒険がはじまるんだな」という感動とはまた少し異なる「聖剣3のコンサートがいよいよ走り出したんだな」という喜びも溢れてきます。
今回注目の大編成のパーカッション隊ですが、早速スネアがこの走り出す感覚だったり、疾走感だったりを抜群に引き出しています。
最後にタイトルロゴが出るというのはスタンダードな演出なのかもしれませんが、そこでまた大きな感動が得られました。
コンサートのオープニングとしても最高の楽曲となりました。
Meridian Child
私も大好きでサントラレビュー記事では迷わずベストトラックとした楽曲です。
物語がいよいよ各主人公キャラクターを通して動き出す、第二のオープニング楽曲と言ったところでしょうか。
コンサートの演出的にも、どうしても2曲目に演奏しなくてはならない楽曲だったと思います。
しかし、胸を躍らせながら聴いているとちょっとした違和感がありました。
マーチ楽曲らしからぬ、スローテンポで落ち着いたアレンジになっていたのです。
「あれ」となりましたが、これもコンサートの構成上必要な演出の1つであったことに後ほど気付かされることとなり、アレンジの印象もぐっ良くなることとなりました。
Whiz Kid ~ Another Winter
全曲に引き続き落ち着いたテンポで楽曲が演奏されていきます。
それがまた自然に演奏へと引き込まれるような心地良さがありました。
しかし、そうした中にも菊田さんの仰っていた楽曲の「勇敢さ」というものが入ってきています。
なので、落ち着きながらも何処か揺さぶられるような感覚がありました。
クラリネットの運指が難解だったとのことですが、カメラがゲーム映像の方に切り替わってしまい手元が見れなかったのは少し残念にも思いました。
サントラを聴いているだけでは意外と聴き流してしまっていたフレーズだったので、こうして菊田さんの解説を聴くことで楽曲の印象がまた変わりました。
Strange Medicine ~ Hightension Wire
菊田さんが「ピチカートと木管楽器のハーモニーが大好きだ」と仰っていましたが、何のことかと気になって調べてみたら、ピチカートとはストリングスの弦を指で弾く奏法のことでした。
なるほど木管楽器は音量がやや静かな楽器なので、ピッチカートで静かに旋律を支えるとハーモニーが際立つのだなと学びました。
これは正しく楽器の音を引き立てるという、今回のオーケストラアレンジに感じた素晴らしい点を大いに感じられる箇所だと思います。
Powell
大人気のフィールド楽曲で私自身も大好きな楽曲ということで、非常に楽しみにしていました。
それと同時に「オーケストラでやって大丈夫なの?」という小さな疑問も湧いていた楽曲にまります。
恥ずかしながら気付いていなかったのですが、こちらの楽曲は音楽ジャンルで言うとこころの”ボサノバ”とのことでした。
となると、オーケストラでの演奏やアレンジは非常に難しくなってくるのは素人の私にも理解はできます。
実際聴いてみますと、確かにストリングパートはちょっと苦しいかなとも感じたのですが、それをパーカッション隊、とりわけマリンバが見事にフォローしており、楽曲全体としてのまとまりを生み出しているのに感動を覚えました。
演奏もアレンジもお見事でした。
Evening Star
コンサート全体として木管楽器の活躍が目立っているのですが、とりわけこちらの楽曲では大きな見せ場となっていました。
私はオーケストラの音で言えばオーボエの音色が最も好きなのですが、その暖かみのある、繊細で伸びやかな音色を大いに堪能することができ、大満足の楽曲となりました。
Little Sweet Cafe
どうしてもゲーム中の武器屋の店員さんの謎に満ちた踊り?が目に浮かんでしまう楽曲です。
なので、映像としてその踊り?を映して欲しかったなとちょっと残念に思っています。
むしろ、ゲーム音楽のアマチュアオーケストラ団体の演奏だと、手の空いてるパートの楽団員が躍り出して観客を戸惑わせる、なんて演出までやるかもしれません。
それはさておき、こちらの楽曲もアレンジが非常に好きでした。
主旋律の最後の下降旋律の使い方が心地良く、楽曲の最後もそこで結んだのが非常に好きでした。
Nuclear Fusion ~ Positive
一部最後の楽曲でしたが、オーケストラ映えの凄まじい楽曲でした。
まず、出だしのトランペットの勇ましさで場の空気が締まるのを感じました。
そして、躍動するティンパニーにここまで凄みを感じたのは初めてだったかもしれません。
さらには鐘の音から広がっていくオーケストラルサウンドはもう圧巻でした。
楽曲の良さである祝福に満ちた、聖い旋律を最大限に引き出された素晴らしい演奏及びアレンジだったと思います。
Splash Hop ~ Can You Fly Sister?
第二部の幕開けは、乗り物系生物のメドレーでした。
「Splash Hop」はジャマイカ音楽とのことですが、レゲエとはまた違った穏やかなノリで、それでも独特なパーカッションにリズムは大変心地良いです。
「Can You Fly Sister?」におけるフラミーが羽ばたくような飛翔感は、もう流石だなと思いました。
ストリングスとハープが合わさった響きの雄大さに非常に惹き立てられるものがありました。
Decision Bell
こちらの楽曲の解説で菊田さんが宮野さんのアレンジにすごく感謝されており、菊田さんにとって音楽的な個性や特質という部分で大切にされている曲であるのだなと感じました。
演奏を聴いてみて特に印象的だったのがストリングスのみになる箇所で、静けさや緊張感といった要素が絡み合い、旋律の美しさを際立たせているように感じられました。
Delicate Affection
鳥肌の立つような美しく繊細な旋律に酔いしれることのできるシンプルなアレンジだと思いました。
アレンジとしての飾らないことの良さというものもここで確認できました。
Intolerance
何かに吸い込まれれるような小気味悪くも惹き付けられる旋律。
ゆっくえい、ゆっくり、しかし着実に飲み込まれていきます。
ここでもティンパニーが強烈な印象を残してきます。
タイプの異なる楽曲なので、コンサートの構成において1つのアクセントとなっておりました。
Strange Medicine ~ Hightension Wire
中ボス楽曲のメドレーです。
ゲーム音楽コンサートにありがちなオーケストラ楽団への無茶振り枠。
すなわち、オーケストラ楽団の腕の見せ所となるのですが、その難解さを感じさせない素晴らしい演奏に感服させられました。
Sacrifice Part One, Two and Three
重要なラストバトル曲ですが、こちらも素晴らしかったです。
特に第2楽章のパーカッション隊のみでの演奏箇所は聴覚的にも視覚的にも釘付けとなりました。
今までありそうで無かった新しい体験となりました。
これまでも大活躍のパーカッション隊でしたが、ここでその凄みがいよいよ確信に変わるような感覚でした。
どこから助っ人をお願いしたのか分かりませんが、超異例の7人編成のパーカッション隊ということで、大変貴重なひと時となりました。
Return to Forever
2部の最後はもちろんエンディング楽曲です。
旋律というよりも音の広がりで圧倒されていったのですが、特に印象的なのはやはり木管楽器でした。
オーボエの音色から入り、音が広がっていき、極限まで昇華されてから2本のフルートによる信じられないほど美しい和音で結んでいきます。
ずっと聴いていたい、この最高の和音がいつまでも続いて欲しい、そんな思いに駆られながらも、終わった後の余韻はいつまでも残るような感覚がありました。
Angel’s Fear ~ 天使の怖れ
アンコールからは同じく菊田裕樹さん作曲の「聖剣伝説2」の楽曲も取り入れた構成となりました。
良作の間で同じフレーズを使用されている楽曲が複数あるのですが、それらをメドレー形式で繋いで聴き比べができるという、これまた今までにありそうで無かった試みになりました。
コアなファン向けのサービスにも感じられました。
Electric Talk ~ 少年は荒野をめざす
アンコール2曲目も、全曲と同様の切り口で演奏された楽曲になります。
この時点で「次はもしかして」という予感を感じさせられる展開となりました。
子午線の祀り ~ Meridian Child
そして、最後にその「もしかして」が実現します。
「聖剣伝説2」を代表するラストバトル曲「子午線の祀り」から「聖剣伝説3」を代表するオープニング楽曲である「Meridian Child」へと繋がります。
この2曲が同じフレーズを使用されていることはあまりにも有名ですが、このような方法で「Meridian Child」を再演奏するというのは予想外でした。
しかも今度はコンサート冒頭とは異なるハイテンポでの「らしさ」のある馴染み深い演奏で、非常に昂ってくるものがありました。
そして、各主人公キャラクターが映し出される演出は、多くのコンサートを鑑賞してきた私の中でもトップクラスの感動が得られたフィナーレとなりました。
もうこの時点で鳥肌が止まらないわけですが、演奏が終わると菊田さんが壇上に招かれ、指揮の大井さんはじめ、東京交響楽団の皆さんや関係者の方たちの暖かい拍手に包まれると、何故か私自身も込み上げてくるものがあり、涙が頬を伝いました。
まとめ
楽曲の良さはもちろん、アレンジや演奏、演出に至るまで「素晴らしい」というベタな言葉を並べたくなるコンサートでした。
私は音楽的知識等をほとんど持ち合わせていませんが、それでも菊田さんの音楽への理解がほんの少し進んだ感じがしたのは、ご本人による解説だけでなく、宮野さんのアレンジに拠るところも大きいような気がしています。
今までのコンサートではあまり感じたことの無かった感想として、「聖剣伝説3」の楽曲を改めて見つめ直すような機会になったと感じております。
「素晴らしい」を一度紐解いて「やっぱり素晴らしかった」と再認識させられるようなコンサートでしたので、深く印象に残るものとなりました。
さて、最後にこれはもはや恒例の要望的なアレなのですが、こんなにも素晴らしかったコンサートを「配信コンサート」だけで終わらせてしまうのは、あまりにも勿体無いです。
もちろん生で聴く機会は欲しいのですが、それはひとまず置いておきまして、少なくともCDによる音源化、あるいはBDによる映像化という形(理想は両方)で末永く楽しんでいけることを強く願っております。
そして自分が楽しむだけでなく、多くの人の耳に届けば嬉しく思います。