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レビュー「スウィートソウル EP」 / キリンジ

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はじめてのキリンジにお勧めできる入門編!

堀込高樹、堀込泰行

今回はゲーム音楽関連アーティストの記事としてキリンジの作品をご紹介しようと思います。

キリンジと言えば、アルバムだけで10枚もあり、多くの作品をリリースされております。

その中でこちらのEP(Extended Play:シングルよりも長く、アルバムより短いCD)は、私がキリンジが好きになるきっかけになった作品でしたので、入門編に良いのではと思いましたので選定させて頂きました。

しかし、CDのご紹介の前に長くなりますが、キリンジの紹介からさせて頂こうと思います。

キリンジとは?

そもそもキリンジとはどのようなミュージシャンなのでしょうか。

結成時のメンバーは堀込兄弟のみでしたので、「デュオ」とか「ユニット」という言葉を使いたくなりますが、ご本人たちは「バンドである」と公言されています。

楽器はお二人ともギターなのですが、メインヴォーカルは堀込泰行さんが担う形になっております。

楽曲制作は共作もありますが、各々で制作されたものが多く、「兄弟だけあってやはり傾向が似ているな」とも感じさせますし「いや、やはり各々の個性があるな」とも感じさせます。

似ている部分は「難解な歌詞」にあると思います。

兄の堀込高樹さんの楽曲の方が「より難解だ」とも言われていますが、弟の堀込泰行さんの楽曲も難解なものが多いです。

どのように難解なのかというところですが、個人的に感じるのは比喩表現の難解さです。

例えばですが、「休日ダイヤ」という楽曲に出てくる”カリフラワーのみどり児は僕の街”というフレーズは、明らかに比喩ではあるのですが、何を例えているのか解釈するのは非常に難しいです。

両者の楽曲で個性的な違いを感じる部分は、どちらかというと作曲の方に私は感じます。

堀込泰行さんの楽曲は今回ご紹介する「スイートソウル」や代表曲とも言われる「エイリアンズ」のように、旋律の美しさが際立ったものが多い印象があります。

堀込高樹さんの楽曲はゲーム音楽を制作していたくらいなので、テクニカルな色が濃いなと思います。

この辺りはお二人のソロ活動のCDをそれぞれ聴いてみますと、より明確に見えてくる感じがします。

しかし、どちらの詞も曲も非常に素晴らしいのは間違いありません。

正直なところ、真似できる人は居ないのではないかと感じさせられ、多くのミュージシャンのリスペクトを集めるのも納得がいきます。

さて、「みんな大好き塊魂」のサントラレビュー記事で触れましたが、兄の堀込高樹さんは元ナムコのコンポーザーです。

「風のクロノア」の楽曲が特に有名だと思うのですが、私個人は一部の楽曲を制作された「スーパーファミスタ5」を幸運なことにプレイしておりましたので、そちらの印象が強いです。

そして驚くことに、それらの楽曲の一部をキリンジの楽曲にも主旋律や間奏で使用されています。

プレイ当時は子供ながらに「ちょっと癖のある不思議な音楽だな」と思っていたのですが、それが10年以上の歳月を跨いで姿を変え、再度降り注いでくるような形になりました。

現在は堀込泰行さんはキリンジを脱退されています。

1996年にデビューし、10枚ものアルバムをリリースしましたが、転機は2013年に訪れました。

ご本人たちは「兄弟ならではの難しさ」という話をされていましたが、解散ライブを行った後、堀込泰行さんはソロ活動を行っております。

一方の堀込高樹さんはキリンジを残す形でメンバーを加え、新生キリンジとしてのバンド活動をされています。

私はどちらの活動も応援しており、少なくともCDは聴いているのですが、やはり二人での活動が終わってしまった寂しさも抱えているというのが正直なところではあります。

キリンジと私

私がキリンジを知ったのは、2001年夏です。

7月19日にFF10も発売された私にとって伝説的な夏です。

その約1週間前の7月11日深夜、当時私が愛聴していたラジオ番組「aikoのオールナイトニッポン.com」でキリンジのお二人がゲスト出演されました。

番組の中でも言っておりましたが、aikoさんがキリンジのことを「尊敬するアーティスト」だという話を口にしていました。

そのリスペクトがキリンジの耳に入り、シングル楽曲「雨は毛布のように」のコーラスにゲスト参加して頂けないかとオファーし、aikoさんが快諾しました。

こうした縁でキリンジの番組へのゲスト出演も実現したわけです。

当然ながら番組の中で「雨は毛布のように」のCD音源が掛かったのですが、最後にこちらの楽曲をキリンジとaikoさんによる生歌で披露されました。

今まで聴いたことないような心地良い旋律に衝撃を受け、その夏はFF10の合間に「雨は毛布のように」を繰り返し聴いていたのを覚えています。

その後リリースされたシングルは当時は聴いておりませんでしたが、ラジオで今度は「スウィートソウル」が流されると、「こんな綺麗な旋律があるのか」と後日レコード店に行くことになりました。

そこで購入したのが本日紹介する作品になります。

収録されている全ての楽曲が素晴らしく、「他の作品も全部聴きたい」と思いに駆られ、キリンジという名の沼に足を踏み入れました。

そこは、一度聴き始めると暫く他のアーティストの作品は聴けなくなるくらいの中毒症状をもたらすような、末恐ろしい沼だったわけです。

さて、前置きがいつも以上に長くなりましたが、ここでようやくCD紹介に移ろうと思います。

EPの全体像

収録楽曲は全12曲ですが、後ろ半分は収録曲のヴォーカル部分のみをカットしたインストルメンタルバージョン(カラオケバージョン)になります。

すなわち実質的には6曲なのですが、その内容は濃く、フルアルバムを聴いているくらいの感覚にもなります。

どの曲も個人的には名曲なのですが、「スイートソウル」「愛のCoda」はファンの間でも特に人気が高い印象で、ライブの定番曲にもなっています。

収録曲

1.スウィートソウル

2.ブラインドタッチの織姫

3.愛のCoda 

4.ザ・チャンス 

5.悪い習慣 

6.クレイジーサマー

1.スウィートソウル / 詞曲:堀込泰行


旋律の美しさが際立った楽曲で、一発で鷲掴みにされる人も少なく無い楽曲です。

少なくとも私や、ふいに聴かせてみた友人はそうでした。

曲名に「スイート」と入っていますが、旋律そのものも甘いです。

イントロ部分が1小節分の短いパーカッションから始まり、不意打ちのようにその甘い旋律が始まりますので、ぐっと引き込まれるものがあります。

歌詞も読んでいるだけで普段は眠っている想いが溢れだしそうな甘さを感じさせます。

ギターでコードだけ奏でても非常に美しいので、私自身も気分転換によく弾いたりしておりました。

2.ブラインドタッチの織姫 / 詞曲:堀込高樹


冒頭の歌詞からしてなかなかの衝撃があります。

3秒前 キスをする人は真顔になるのさ

なかなか、こういった歌詞の歌は無いと思うのですが、堀込高樹さん特有のやや毒気のある歌詞になっています。

歌詞は難解過ぎて解釈できないのですが、気になる「ブラインドタッチの織姫」という曲名についてくらいは少し考えてみようと思います。

やはり、何かの例えなのだと思うのですが、個人的には以下の歌詞の部分からヒントを得て解釈しました。

ふさぎがちなブラインドタッチの織姫

”ブラインドタッチ”というのは、素直にPCのキーボード操作におけるそれだと思います。

手元を見ずに画面だけを見ているということです。

そう考えますと、”ふさぎがち”という言葉が相まって「なかなか目をみようとしない」あるいは、「なかなか振り向こうとしない」というちょっと堅い女性をイメージします。

”織姫”という言葉は神々しさがあるので、堅い印象をより強くします。

そんな彼女を射止める”彦星”は誰かな?と俯瞰した視点に立っているように感じさせます。

3.愛のCoda / 詞曲:堀込高樹


こちらの楽曲は全く予測の出来ない難解な旋律が魅力です。

アップテンポの楽曲では無いのですが、旋律のアップダウンが大きいため、どこかスリリングな感覚を持ちます。

特にサビ前の部分がリズム含め、変化に富んでいて凄みを感じさせます。

これまた気になる曲名の「Coda」なのですが、これは音楽用語で、楽曲の末尾に締めくくりとして作られている部分になります。

要するに愛を譜面になぞらえており、歌詞を見る限り残念がらその末尾はハッピーエンドとはいかなかったようです。

歌詞で非常に好きな個所があります。

不様な塗り絵のような人生が 花びらに染まっていたあの夏

ひと夏の恋といったところなのでしょうが、それを色で表現しているのが非常に美しいと思います。

というのも、特別な経験をした時期、時間というのは、それを思い出すと煌びやかであったり華やかであったり、そういった色彩的な感覚と言うのを私自身も持っています。

それをこんなに素敵な表現で詞にしているのが凄いなと感じさせらております。

4.ザ・チャンス  / 詞曲:堀込泰行


こちらの楽曲は分かり易く、親しみ易さのある応援ソングです。

難解なものばかりでなく、こうしたタイプの楽曲も織り交ぜてくるのがまた良いなと思います。

私自身、キリンジを聴き始めた頃に特に気に入っていた楽曲です。

こちらのCDが「キリンジ入門編」という位置付けに感じている要因の1つになります。

5.悪い習慣 / 詞曲:堀込高樹


こちらも特有の毒気がある楽曲です。

普通に解釈すればアルコール中毒を題材にしているように感じますが、そんなにシンプルでもない気もします。

すなわち、抜け出せないのはアルコールではなく別の何かであり、その何かをアルコール中毒に例えて歌っているだけのようにも感じるのです。

例えば、無職でなかなか社会に出る気になれないから親に悪い気がしているとか、そういう曲なのかもしれません。

6.クレイジーサマー  / 詞曲:堀込泰行


夏の終わりの夕暮れ時に毎年必ず聴きたくなる楽曲です。

一瞬にして燃え上がり、夏の終わりと共に消えてしまうひと夏の恋を題材にしております。

一癖ありつつも非常に美しい旋律が大きな魅力なのですが、個人的には歌詞もグッとくるものがあります。

私もそうした実体験があるので共感してしまうというのもありますし、その詞の表現にも凄みがあります。

個人的に聴いていて強く感じるのは男の未練です。

歌詞にあるように”ばか騒ぎの海で今も僕は溺れたまま”なわけですから、「寄りを戻したい」とか、「あの時間を取り戻したい」とか、そのような未練を感じさせます。

”乱暴に愛した”とか、”ありふれてた嘘の底深くに”といった歌詞から、相手を愛する思いが強いあまりに、嫌われたくない一心で逆効果な言動をとってしまったのだろうなと、リアリティのある場面まで想像させられます。

まだ試したことはありませんが、夏の終わる頃、浜辺で夕焼けを眺めながら聴いてみたらどんな風になるのか試してみたいです。

おそらく、放心状態に陥り、しばらくその場から動けなくなると思います。

まとめ

堀込泰行さんのメロディアスな楽曲が多く収録されているので、キリンジを聴いたことの無い方にとって非常に聴き易いであろうおすすめの入門編です。

その中でも堀込高樹さんの毒気のある歌詞、一癖あるテクニカル旋律も適度に感じられるのがまた良いように思います。

私は当ブログで「歌詞考察」なる記事も少し書いていますが、楽曲の歌詞に関心が強くなったのは間違いなくキリンジの影響です。

詞に着目するようになると、ゲーム内のテキストなんかもまた違った見方ができ、物語の印象が変わったりすることもあるかもしれません。

難しい詞が多いですが、その正しさではなく、どんな風に感じ取るのかが大事だなと感じております。

それぞれの解釈で、様々な作品を彩られたらそれも素敵なことなのではないでしょうか。

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